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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3494号 判決 1997年1月30日

控訴人

榊原産業株式会社

右代表者代表取締役

榊原松男

右訴訟代理人弁護士

廣瀬清久

被控訴人

植田政弘

右訴訟代理人弁護士

土屋連秀

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1ないし5記載の土地を明け渡し、かつ平成六年一月一日から右明渡ずみまで月額一五万円の割合による金員を支払え。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  事案の概要

本件は、控訴人が期間満了による賃貸借の終了を理由に鰻養殖のために賃貸した土地(池沼)の明渡を請求するのに対して、被控訴人が賃貸借の目的物は鰻養殖用のハウスを含む養鰻施設であり、借家法(借地借家法附則第二条により廃止された借家法をいう。以下同じ。)の適用を受ける建物の賃貸借であると主張して争う事案である。原判決が被控訴人の主張を認めて控訴人の請求を棄却したのに対して、控訴人が不服申立てをしている。

事案の概要として、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。

(控訴人の当審における主張)

原判決は、本件の賃貸借を建物の賃貸借であるとしたが、法律判断を誤ったものである。賃貸の中心は養鰻池であり、ハウスはその付属物にすぎない。ハウスが賃貸の対象であるというのは、逆転の発想である。そして、ハウスは、登記の対象とならず、固定資産税の取扱いでは建物とされていない。ハウスの屋根や外壁に使われるビニールは二年ごとの張り替えが必要であり、耐久性や永続性に問題がある。これらの事柄からみても、ハウスは建物とはいえないのであり、ハウスが賃貸の目的物であるとしても、借家法の解釈上建物ではなく、本件賃貸借は建物の賃貸借ではない。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、本件賃貸借は、その契約の趣旨からして鰻養殖用のハウスを主体とする養鰻施設を賃貸の目的とするものと認められ、そのハウスは借家法の建物またはこれに準ずるもので、その賃貸借の更新拒絶には正当の事由が必要であるが、控訴人はこれを主張しないから、本件賃貸借は終了しておらず、控訴人の明渡等の請求は理由がないものと判断する。

その理由は、次に記載するほか、原判決と同一であるからこれを引用する。

(控訴人の当審における主張について)

1 賃貸借の目的について

原判決の挙示する証拠によれば、原判決第三、二記載の事実が認められる。これによれば、本件賃貸借の契約書の文言からして、本件賃貸借が養鰻用のハウスを主体とする養鰻施設の賃貸借であることは明瞭であり、これに対応して、賃料の額も単なる養鰻用の池の賃貸借の場合と比較して大幅に上廻る金額であることが認められる。したがって、本件賃貸借の対象を土地(池)に限定して解釈すべきであるとする控訴人の主張は、採用できない。

2 本件養鰻用のハウスと借家法の建物

原判決の挙示する証拠によれば、原判決第三、一記載の事実を認めることができる。右に認定した事実によれば、本件養鰻用ハウスの構造は、基礎はコンクリートで作られ、容易に取り壊すことができないうえ、骨組みは重量のある鉄骨で組立てられており、全体として強度及び耐久性に優れていること、屋根及び外壁は、太陽光を室内に導き内部の温度を高く保つ必要から、光を通し断熱性のある透明ビニールシートで覆われており、そのため耐久性に劣るが、風雨を凌ぎ室内を外部と遮断する上で支障はないこと、内部に養鰻用の池があり、配管やボイラーなどの設備があるが、それらの設備は、ハウス内で人が事業を行うための設備であり、ハウスが建物またはこれに準ずるものであることと矛盾しないこと、以上の事実が認められる。

そして、借家法において建物の更新拒絶または解約申入れに正当事由が必要とされるのは、その中で人の居住や営業が行われるため、安定した契約関係を保障する必要があるからであると解釈されるところ、右に認定した本件養鰻ハウスの構造などをみると、これを建造するについて多額の投下資本を要し、また、前記のような構築物であることを前提として賃借人が資金を投下してその長期間にわたる回収を予定していること、屋根があり側壁があって、風雨を防ぎ外気と遮断して内部で人が養鰻という相当程度継続した期間使用することを予定している営業を行う施設となっていることなどの事実が認められるのであって、これらの事実を考慮すると、本件養鰻ハウスは、登記が可能な建物ではないとしても、その賃貸借関係について借家法の保護を与えるのが相当な建物またはこれに準ずるものに当たると解するのが相当である。この点に関する控訴人の主張は、採用することができない。

二  したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今井功 裁判官淺生重機 裁判官田中壯太)

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